この度、Yoshimi Artsは、弊廊にて5回目となる館勝生の展覧会「館勝生 1980s-1990s」を開催する運びとなりました。
コンセプチュアル、ミニマル、ニューペインティングが混在している中で、館勝生は、身体の感覚に一番近いところで出来る絵画を選びました。晩年にあたる2008年まで描き続け、その短い画業の中でも作品は変化していきました。1990年代初めからは、虫と分かるような有機的な存在を用いて描いていますが、それまでの、絵具の色彩と物質感で描いていた抽象絵画とは、それらは一線を画す作品のように思います。
館勝生の実家は養蜂場を営み、館も幼少の頃、花を求めて全国を回るのに同行して、自然の中で四季や朝夕の時間の移り変わりを肌で感じていました。その体験からインスパイアされ、虫を抽象的に描くようになったと聞きます。その後、1990年代中頃の作品になると、虫のようなモチーフが解体されて、絵画の構造が画面全体に立ちあがり、突然出現した球体が宇宙的な空間を作り出します。それが2000年に入ると、激しい生命観を持ったような抽象化された有機体になり、それと共に大きな余白が出現します。その余白が時間を作り出し、時間の中において、浮遊する有機体が激しくも限りある物に見えてきます。また、2006年までの余白部分は淡いパール色で薄く塗られ、少し絵具の物質感がありますが、2007年になると有機体が少し大きくなるのと同時に、余白に絵具を全く塗らなくなっており、時間が流れているようにも、止まっているようにも感じられる空間へと展開しているように思います。
本展は、初期作品にあたる1980年代から一つの達成を得た1990年代までの作品で構成し、2000年代の作品に至るまでの足跡を辿る展示となります。出品作品は、1988年に20代で描いた油彩1点、1995年の阪神・淡路大震災で館勝生のアトリエは甚大な被害を受けた為にあまり作品が残っていない時期にあたる1994年作のドローイング3点と1995年の油彩1点、そして1996年の大作1点の計6点を予定しています。
また、現在、国立国際美術館のコレクション展「コレクション2:つなぐいのち」(2022年5月22日まで開催)では、絶筆作品ともう1点、2008年の2作品が出品されています。併せてご高覧頂ければと思います。
<参考資料>
空間のビカミング6「瞬時的絵画の生成」
高木修
館勝生の絵画には、何かが停止している瞬間と同時に落下するといったイメージがあるように思えてならない。たとえば、フランシス・ベーコンの絵画「<法王イノセント10世の肖像>にもとづく習作」(1953)を想起するだろう。あの垂直に走るストロークは、法王の<叫び声>とともに画面に振動を与えており、しかも「<法王・・・>・・・」の場合、茶系統の色彩が渇いているとともに、筆のタッチがかすれ、上から外へと響きわたっている。またストロークや色彩を見れば、「二人の人物」(1953)の背景に近いように思える。特に館の作品「unspeakablegift」(1992)などは、その暗褐色の筆勢と相似している。だが館の場合、ベーコンの聳動的絵画に見られる存在のねじれや時間の厚みはなく、むしろ<停止した時間>、あるいは、G.バシュラールがいうような<尺度に従わない時間>、・・・・・・<水平的>に逃げ去ってしまう普通一般の時間と区別するために、特に<垂直的>と呼んでみたい時間を絵画の中に見ることができよう。
しかも、館の絵画が新鮮に見えるのは、古いタイプの抽象絵画の<へばりつくような塗り>から解放されているためである。日本特有の厚塗りをもって色彩の豊かさを表わすといったアナクロ的な手段とは異なっている。もちろん館自身も、1989年までは絵の具を厚塗りしていた。このことに対して館は≪絵の具の物質面ばかり強くなり、本来のイメージを形容するものである、形態、色彩、それが違うほうへ≫とずれてしまったことについて述懐している。がゆえに、そのような余分な部分を要素をそぎ落としてきた。
そうした、そぎ落としていく作業は、ストローク、マティエール、形態、色彩といった作用子の、どの部分にも比重が置かれることなく画面全体に合一するように等価なレヴェルで扱われている。それゆえ、マティエール主義になることはないのである。むろん、ストロークやマティエール、形態、色彩を含んだ手の<運動>の中でこそ―速度、持続、停止、瞬間、生成、消滅などといったものが画面に放射されるのだ。
そして、館のこの絵画を特徴づけているのは、瑞々しい<官能性の色彩>ではなかろうか。このことは絵の具が生々しいといったことではないのである。つまり、私がいう<官能性>とは、生成する絵画=瞬間を指している。つまり、バシュラール的に言えば、行為とは、何よりもまず<瞬間>における決心というべきものである、ということだ。
館は、≪生成されるイメージをできる限りストレートに画面に定着させるためには、当然短時間に作品を仕上げなければならない≫、≪制作する時間的な経緯が長くなれば、描く瞬間にあるイメージが衰退してしまうのではないかという恐怖心がつねにある≫という。このことは、瞬時的なイメージを即座に画布に定着させたいという欲動にほかならない。つまり、この瞬時的絵画の生成は、≪イメージの生成と手の活動とがあるいは同時に進行する≫(金田晋)のである。逆説的な言い方をするならば、私たちがつねに、思うがままの絵を描くことができないのは、イメージの生成と手の活動がずれをひきおこすからだといえよう。
館の新作絵画には、蛹が羽化する過程にも似かよっている。それもストップモーションのように、残像を残しながら瞬間的に浮き上がって停止しているという状態なのだ。そして図も地も<より明るく(モア・ブライト)>、<より暗く(モア・ダーク)>が同時に描かれ、ともに垂直に溶解し始める。
*αMプロジェクト1992-1993 vol.14 館勝生 (gallery αM/東京、1993) より
館勝生 TACHI Katsuo >> |
1964 |
三重県生まれ |
1987 |
大阪芸術大学芸術学部美術学科卒業 |
2009 |
44歳で逝去 |
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個展(生前) |
1985 |
ギャラリー白(大阪)〈’87~’93,’95~'09〉 |
1991 |
永井祥子ギャラリーSOKO(東京) |
1992 |
ギャラリーOH(一宮) |
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ギャラリーVIEW(大阪) |
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ギャラリープランタン(松山) |
1993 |
細見画廊(東京) |
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ギャラリーαM(東京) |
1994 |
神戸西武百貨店(神戸) |
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イムラアートギャラリー(京都) |
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ギャラリーFUTABA(名古屋) |
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The Ufer! Gallery(京都) |
1996 |
第一生命南ギャラリー(東京)〈’03〉 |
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ギャラリーGORO(大阪) |
1997 |
Oギャラリー(東京)〈~’03,05~’09〉 |
1998 |
CTIウインドウギャラリー(東京) |
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原美術館-ハラドキュメンツ5(東京) |
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ガレリアフィナルテ(名古屋)〈~’01,’03,’06,’09〉 |
1999 |
エスプリヌーボー(岡山)〈~’01,’03,’04〉 |
2001 |
三重県立美術館(三重) |
2002 |
ギャラリー千(大阪) |
2006 |
高島屋アートサロン(大阪) |
2008 |
甲南大学ギャルリーパンセ(神戸) |
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主なグループ展 |
1986 |
「IMPACT ART」(韓国美術館/ソウル) |
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「多様性の構築」(石橋美術館/久留米) |
1987 |
「私的な精神」(大阪府立現代美術センター/大阪) |
1991 |
「いま絵画は-OSAKA」(大阪府立現代美術センター/大阪) |
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「TAKE ART COLLECTION」(スパイラル/東京) |
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「大阪現代アートフェア」(大阪府立現代美術センター/大阪) |
1992 |
「筆あとの誘惑」(京都市美術館/京都) |
1994 |
「現代美術の展望-VOCA’94」(上野の森美術館/東京) |
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「アートナウ’94-啓示と持続」(兵庫県立近代美術館/神戸) |
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「現代美術の断面」(現代ギャラリー/ソウル) |
1995 |
「済州プレビエンナーレ’95」(済州アートセンター/韓国) |
1996 |
「美の予感」(高島屋美術画廊/東京、横浜、京都、大阪) |
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「新鋭美術選抜展」(京都市美術館/京都) |
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「SPIRIT & ENERGY」(ワールドワークスファインアーツ/カルフォルニア) |
1997 |
「現代美術の展望-VOCA’97」(上野の森美術館/東京) |
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「CONTEMPLATIONS」(ワールドワークスファインアーツ/カルフォルニア) |
1998 |
「新鋭美術選抜展」(京都市美術館/京都) |
2002 |
「収蔵品展-新しいコレクションとシャガール全点公開」(三重県立美術館/三重) |
2003 |
「あるサラリーマン・コレクションの軌跡-戦後日本美術の場所」(周南市美術博物館/山口、三鷹市美術ギャラリー/東京、福井県立美術館/福井) |
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「京都・洋画の現在-85人の視点」(京都文化博物館/京都) |
2004 |
「第一生命ギャラリー所蔵作品展」(第一生命南ギャラリー/東京) |
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「VOCA1994~2003-10年の受賞作品展」(大原美術館分館/岡山) |
2005 |
「第一生命所蔵作品展」(第一生命南ギャラリー/東京) |
2006 |
「VOCA展に映し出された現代-いまいるところ/いまいるわたし」(宇都宮美術館/栃木) |
2007 |
「第一生命所蔵作品展」(第一生命南ギャラリー/東京) |
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「開館15周年記念ー愛知・岐阜・三重 三重県立美術館共同企画 20世紀美術の森」(愛知県美術館/愛知) |
2009 |
第28回損保ジャパン美術財団 「選抜奨励展」(損保ジャパン東郷青児美術館/東京) |
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「2009年度常設第1期展示-追悼 館勝生(1964-2009)」(三重県立美術館/三重) |
2010 |
「円と方 京都市美術館コレクション展第1期」(京都市美術館/京都、愛知県美術館/愛知) |
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「ひろがるアート~現代美術入門篇~愛知・岐阜・三重」(三重県立美術館/三重) |
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「コレクション2 近年の収蔵品を中心に」(国立国際美術館/大阪) |
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「碧南市藤井逹吉現代美術館所蔵作品展 鉄斎から現代まで」(碧南市藤井逹吉美術館/愛知) |
2011 |
「コレクション展 2011-春」(和歌山県立近代美術館/和歌山) |
2012 |
「国立国際美術館35周年記念展 コレクションの誘惑」(国立国際美術館/大阪) |
2017 |
「開館35周年記念I ベスト・オブ・コレクション-美術館の名品」(三重県立美術館/三重) |
2018 |
「県美プレミアム 県政150周年記念 ひょうご近代150年」(兵庫県立美術館/兵庫) |
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「ニュー・ウェイブ 現代美術の80年代」(国立国際美術館/大阪) |
2020 |
泉茂+館勝生展「VISON」(日本橋三越本店 コンテンポラリーギャラリー/東京) |
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「京都の美術 250年の夢 第1部~第3部 総集編 -江戸から現代へ-」 (京都市京セラ美術館/京都) |
2022 |
「コレクション2:つなぐいのち」 (国立国際美術館/大阪) |
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Yoshimi Artsでの展覧会 |
2012 |
「2nd Anniversary」 >>、「館勝生展」 >> |
2015 |
「館勝生展」 >> |
2017 |
アートフェア東京 2017 「館勝生」 (東京国際フォーラム[Yoshimi Artsブース]) >> |
2019 |
「館勝生 1997-2006」 >>、「フラッシュメモリーズ」 (432|SAI GALLERY、Yoshimi Arts、The Third Gallery Aya、キュレーション|平田剛志(美術批評)) >>、「Insight 22 "spec/bug"」 >>、「Insight 23 "交差する地点/intersecting viewpoint"」 >> |
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2020 |
「Insight 24 "abstraction"」 >> |
2021 |
「館勝生 1994-2008」 >>、「青 / BLUE」 >> |
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受賞歴 |
1994 |
現代美術の展望 VOCA展’94 奨励賞 |
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コレクション |
三重県立美術館、第一生命保険相互会社、国立国際美術館、甲南大学、愛知県美術館、和歌山県立近代美術館、碧南市藤井達吉現代美術館、京都市京セラ美術館、兵庫県立美術館 |